ブランド体験を共創し、自動車文化の過去・現在・未来を伝える「Hyundai Motorstudio Seoul」

2025年、ソウルの「Hyundai Motorstudio」はCCCとの協業によりリニューアルを実施。単なるショールームを超え、自動車文化を体験する場へと進化しました。1フロア約500㎡の8階建て空間には、自動車愛好家から一般・海外客まで幅広い層が来場。データに基づく顧客理解と空間デザインを融合し、「過去・現在・未来」の視点で文化を発信。両社が目指したブランド体験の新たな形を関係者に聞きました。(2026.03.16 up)

ブランドの信頼を空間で表現する「Hyundai Motorstudio Seoul」の理念

──Hyundai Motorstudio Seoulの概要とコンセプトについて教えてください。

Hyundai Motor Company スペースエクスペリエンス室 クォン・ヒギョン常務:
AIやデジタル技術が進化する今だからこそ、五感や身体を通じて得られる体験価値が、あらためて見直されています。私たちも、そうした時代の流れの中で空間デザインに力を注いできました。
「なぜ自動車会社が空間デザインを手がけるのか」と問われることも少なくありませんが、私たちが伝えたい価値は、タイヤや車体といったプロダクトに限らず、空間そのものからも表現できると考えています。たとえ車がそこになくても、ブランドの思想や姿勢は伝えられるはずだと思っています。
フラッグシップストア「Hyundai Motorstudio」を展開しているのも、Hyundaiというブランドへの信頼を築くためです。この空間を通じて、自動車が持つ完成度や、その背景にある思想までを余すことなく届けたいと考えました。
現在、「Hyundai Motorstudio」は世界7都市で展開していますが、それぞれが異なるコンセプトを持っています。すべての拠点でデータに基づき丁寧にターゲットを設定し、それを空間デザインに落とし込む作業は決して容易ではありません。例えば、釜山では「デザイン」、ソウルでは「自動車愛好家」というテーマを掲げ、各都市の特性や顧客層に合わせた設計を行っています。
こうした一貫した空間づくりを通じて、「空間をここまで美しく、緻密に、そして誠実に管理している人たちがつくる自動車なら、きっと信頼できる、かっこいいものに違いない」そう感じていただける関係性を築くために、私たちはHyundai Motorstudioを展開しています。

「Hyundai Motorstudio Seoul」の画像

データと顧客理解、CCCとの共創が始まった理由

──CCCと共創することになった背景をお聞かせください。

クォン・ヒギョン常務:
以前、Hyundaiの日本法人を通じて、CCCの方々とお話する機会がありました。もともと、非常に先進的な取り組みをしている会社だという認識はあり、蔦屋書店の存在も知っていました。しかし、あらためて会社紹介を伺う中で、事業領域が想像以上に幅広いことを理解しました。
ソウル拠点については、当初からライブラリーを取り入れる構想がありましたので、蔦屋書店を手がけるCCCと協業することは重要だと考えていました。さらに印象的だったのは、本というメディアの捉え方です。本ほどテーマや関心軸ごとに細やかに分類された文化的なメディアは他にないという視点、そしてそれを人々の興味や価値観を読み解くためのデータとして収集・分析しているという考え方に、大きな衝撃を受けました。
もともと「ソウルという場所で一緒に事業を行う」という枠組みが先にあり、本当にシナジーが生まれるのかという不安もありましたが、顧客理解やデータに基づく深い分析はCCCの強みです。データを単なる数字として扱うのではなく、顧客を理解するための指標として捉えている点は、私たちにとって大きな学びでした。実際にソウルでも、韓国の自動車愛好家の嗜好や関心を踏まえた多様な体験をともに開発することができ、データが持つ可能性と価値をあらためて実感しています。
その後、実際に日本国内のさまざまな蔦屋書店を見学しましたが、「この拠点といえば、このペルソナ」というイメージが自然と浮かび上がってきました。拠点ごとに明確なペルソナが設定され、それが空間づくりに反映されていることが伝わり、その完成度の高さに強い印象を受けました。私たちも拠点を開発する際には同様の視点を大切にしていますが、CCCのアプローチはより体系的かつ専門的であり、徹底したコンセプトのもとに構築されていると感じました。
「Hyundai Motorstudio Seoul」には、もともと30〜40代の自動車好きの男性を主なターゲットとして想定していました。ただし、いわゆる“マニア”と呼ばれるほど専門性の高い文化を求める層は決して多くはなく、理想や期待値も非常に高いため、一般的なコンテンツでは心をつかむことが難しいという課題がありました。そこで、来場した愛好家同士が自分の車を見せ合い、自然に会話が生まれるような人たちを具体的なペルソナとして設定しました。
先週自動車の3Dプラモデルイベントを開催したところ、まさに想定していた層の方々が集まり、大いに盛り上がりました。その点でも、CCCには非常に感謝しています。現在では、一般のお客さまや海外からの来訪者も増え、来場者層はさらに広がっています。

「Hyundai Motorstudio Seoul」の画像

顧客中心という共通言語と文化を超えた協業のプロセス

──文化や価値観の異なるCCCとの協業において、印象に残っているプロセスやコミュニケーションがあれば教えてください。

Hyundai Motorstudio チーム2 イ・ユナ チームリーダー:
日本と韓国では文化や顧客の価値観に違いはありますが、両者に共通していたのは「顧客を中心に考えること」、そして「顧客を深く分析すること」でした。その点において、目指している方向性は同じだったと思います。
実際にこの空間づくりを進めるにあたり、車の愛好家や、これから訪れてほしい人たちが何を求めているのかをデータに基づいて議論し、何度も時間を設け、丁寧にディスカッションを重ねながらプロジェクトを進めていきました。
テーマを設定してからも、その決定に至るまでには多くの意見交換がありました。アイテムを一つ選ぶ際にも、「このアイテムはテーマとどうつながっているのか」「どうすれば愛好家の方に魅力を感じてもらえるのか」といった点を、一つひとつ話し合いながら決めていきました。
私たちは、文化や業務プロセスの違いはあっても、細部まですり合わせを行い、顧客を徹底的に分析し、突き詰めていく姿勢は共通していたと感じています。

Hyundai Motorstudio チーム2 ムン・デグン シニアマネージャー:
プロジェクト初期は、言語の違いもあり、進行や調整に想定以上の時間を要しました。
そのなかでも特に印象に残っているのが、コンテンツ配置を決めていくプロセスです。Hyundaiでは、事前にレイアウトやVMDまで詳細に設計し、現場では実際に配置を行いながら細部を微調整していく進め方をとってきました。一方でCCCは、まず大きな構想とレイアウトの骨子を定めたうえで、現場でコンテンツを実際に配置しながら、空間の間隔や導線、視界の広がりまでを総合的に捉え、完成度を高めていくアプローチを採用していました。
重視するポイントや進め方には違いがあり、相互理解を深めるまでには時間もかかりましたが、細部に至るまで完成度を追求する姿勢は共通していました。その積み重ねが、結果として質の高い空間づくりにつながったのだと感じています。
何より大切なのは、実際にお客さまに喜んでいただくこと。そのために現場で細部まで議論を重ね、丁寧に詰めていったことで、納得のいく完成度の高い空間を実現できたのだと思います。

イ・ユナ チームリーダー:
プロジェクトを進める過程で最も大切にしたのは、チームワークです。社内の関係者や外部エージェントなど、多くの人が関わる中で、互いに助け合いながら、親密なコミュニケーションを重ねて進められたことが、とても良かったと感じています。

クォン・ヒギョン常務:
逆に一番心残りだったのは、このプロジェクトを通訳を介して進めなければならなかったことです。もし直接、お互いの言葉でコミュニケーションが取れていたら、また違った進め方や深まり方があったかもしれないと感じています。その経験もあって、今は日本語の勉強をしています。

CCC モビリティ・マーケティング・デザイン事業部 グループリーダー 浅田倫正:
コミュニケーションの大切さは、プロジェクトを通じてあらためて実感しました。やり取りの中では翻訳アプリやソーシャルメディアの自動翻訳機能を活用しながら意思疎通を図っていました。私自身も韓国ドラマをよく見るようになり、気づけば動画配信サービスのおすすめは韓流作品ばかりになっています。言葉だけでなく、文化への理解を深めることも、より良い協業につながっていると感じています。

「Hyundai Motorstudio Seoul」の画像

データと蔵書が織りなすライブラリー空間の誕生

──ライブラリーの概要と書籍のキュレーションの特徴を教えてください。

浅田:
韓国の方々に関するデータは私たちでは持っていなかったため、Hyundaiさんが保有しているデータをもとに読み解きを行いました。もともと8つのジャンルで構成されたコンセプトを設定されていましたが、それを「過去・現在・未来」という3つの軸に再編成しました。そのうえで書籍を選定していく過程では、非常に多くのコミュニケーションを重ねました。

CCC 海外事業本部 海外商品部 リーダー 生井あゆみ:
私たちの関わり方は、Hyundaiさんがもともとお持ちの蔵書を参照しながら、キュレーションし直していくというものです。CCCがすべてを新たに選書したわけではなく、基本となっているのは、Hyundaiさんが所有している書籍です。その蔵書のレベルが非常に高く、蔦屋書店で扱っている書籍と同様に、クオリティの高いものがそろっていました。
その蔵書と、今回CCCより提案した「過去・現在・未来」というコンセプトにあわせて、キュレーションアイテムも一緒に展開しています。代官山 蔦屋書店の車コーナーでの知見を活かし、今回のコンセプトやターゲットに沿ったアイテムを取り揃えました。「自動車愛好家」の方に喜んでいただけるよう、ヴィンテージアイテムを日本で買付け、“ここにしかない“という顧客価値を作ることができたと思います。

「Hyundai Motorstudio Seoul」の画像

「Hyundaiはこんなこともできるんだ」という来場者の反響

──「Hyundai Motorstudio Seoul」に来られたお客さまの反響を教えてください。

イ・ユナ チームリーダー:
リニューアル後は、来場者数が全体的に増加しました。あわせて来場者の幅も広がり、従来の30〜40代男性を中心とした層に加えて、若年層(ミレニアル・Z世代)や海外からの来訪者も多く訪れるようになっています。

Hyundai Motorstudio チーム2 ソン・ヒョナ マネージャー:
リニューアルオープンに関する記事の掲載数が増え、数字としての成果も表れましたが、何より嬉しかったのは、Hyundaiのコンテンツにとどまらず、多様なブランドのコンテンツを扱っている点に対して、「Hyundaiがここまで取り組むのか」という声をいただけたことです。
私たちは常に、車を愛する方々が何を求めているのかを考えながら、この取り組みを進めてきました。アイテムの展示にあたっては、他ブランドの車を紹介するべきかどうか迷いもありました。しかし、「過去・現在・未来」というコンセプトを軸に据え、象徴的な存在や、自動車文化の全体像を理解できるアイテムは積極的に取り上げることにしました。
その結果、グローバル企業として自動車文化の空間を本気でつくろうとしている姿勢や、他ブランドを紹介してもなお揺るがないHyundaiの自信を感じ取ったという声をいただきました。時間軸で車にまつわる文化や思想を示すことで、強いこだわりを持つ愛好家の方々にもメッセージが届いたのではないでしょうか。特に「未来」のゾーンでは、Hyundaiが描くこれからのビジョンを明確に伝えることができたと考えています。

イ・ユナ チームリーダー:
今回のリニューアルでは、車を愛する人たちが自然に集い、交流できる場をつくることを目指しましたが、オープン後は、コミュニティイベントを重ねる中で、来場者同士が会話を交わし、情報や体験を共有する光景が数多く見られるようになりました。1階にはさまざまなアイテムを展示していますが、それらをきっかけに、来訪者がそれぞれの知識や経験を持ち寄りながら語り合う姿が印象的です。
定期的なコミュニティミーティングに加え、さまざまなイベントも開催していきたいと考えています。現在、私たちの空間では、来館者が自身のミニカーコレクションを持ち寄り、交換したり購入したりする場面も生まれています。これを、ほかではなかなか出会えないヴィンテージコレクションと結びつけることで、さらにユニークな体験につながるのではないかと考えています。空間が単なる展示の場を超え、交流の場へと広がっていくことを目指しています。

「Hyundai Motorstudio Seoul」の画像

他社ブランドを置く勇気、自動車文化という大きな視座

──“自動車文化全体を捉える”という視点は、どのようにして生まれたのでしょうか。

浅田:
Hyundai以外のブランド、たとえばポルシェやメルセデス・ベンツのアイテムも展示していますが、これはCCCからの提案でした。Hyundaiが目指している「自動車好きに、自動車の本質的な価値を伝える」ためには、もう一段高い視点から自動車文化全体を捉えることが重要だと考えたからです。
この提案をするにあたっては、「本当にHyundaiさんにこの話をしていいのか」という議論もありました。しかし、CCCの行動規範にある「顧客の言うことを聞くな、顧客のためになることをなせ。」という考え方に立ち返り、顧客にとって本当に価値のある体験とは何かを優先すべきだと判断しました。実際に打ち合わせでこの提案をした際、みなさんが驚いた表情をされたことは、今でもよく覚えています。それでも最終的にこの考えを受け入れてくれたことには、深い敬意を感じています。
オープン当日には、韓国のマスコミから「他社の車も展示しているのですね」と質問を受けました。それは、HyundaiとCCCの双方が「自動車愛好家のための遊び場をつくりたい」という共通の目標のもと、「真の自動車文化とは何か」をきちんと伝えられた結果だったのだと思います。 

クォン・ヒギョン常務:
浅田さんの言葉にもあったように、私たち自身も「自動車文化を伝えたい」という強い思いを持っていました。そのためには、他社のブランドについてもきちんと紹介する必要があるだろう、という認識はありました。提案を受けたときも、ある程度の覚悟はしていましたが、どの程度の量や比率で進めるべきかという点については悩みもありました。ただ、重要だったのは量ではなく、見せ方、そして方向性でした。実際には「過去・現在・未来」という構成で進め、他社ブランドは主に「過去」を、Hyundaiは「未来」を担う形になりました。その結果、自然と自負心を持つことができたと思います。
自動車業界においては後発ブランドであるHyundaiですが、展示を通して、これから先の未来を担っていく存在であることを伝えられたのではないでしょうか。そうした構成を提案してくれたことに対しては、非常に感謝しています。

「Hyundai Motorstudio Seoul」の画像

「Hyundai Motorstudio Seoul」は、単なるショールームではなく、自動車文化そのものを体験する場として生まれ変わりました。「過去・現在・未来」という時間軸で自動車の魅力を伝え、ブランドを超えた視座で業界全体を見つめる。そこには、HyundaiとCCCが共に目指した「顧客中心」という哲学が息づいています。

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